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人材マネジメント考vol.2_人的資本経営を意識した人材マネジメントの重要性 (HRMからHCMへの転換)

作成者: レアジョブ広報担当|Sep 29, 2023 3:50:05 AM

 

イントロダクション

以前コラムでご紹介した「人材マネジメントのパラダイムシフト」では、経営や事業環境が変化していく状況の中で、HRM全体と採用、育成・研修、評価・報酬・配置の各視点でパラダイムがどのように変化していったのか、過去と現在これからの時間軸でその全体像を整理しました。ここから、それぞれの視点毎にテーマを絞り、経営環境が激変していく中で、新たな考え方や方法論を活用しながら、どのように適応力を高めていけばいいのか、詳細に考察していきたいと思います。

HRMからHCM

今回は、HRM(Human Resource Management(人的資源管理))についてです。HRMについては、今人材戦略で話題になっている人的資本という考え方が企業経営に大きな影響を及ぼしています。人材マネジメント領域では、これまでは人的資源という考え方が主流でした。人的資源では、人を組織のリソース(資源)とみなし、経営資源として活用し、効率的に管理をする目的で使用していました。

一方人的資本とは、人の知識や能力等を「資本」としてみなす考え方です。人的資本への投資は、個人が持つ知識・スキル・能力・資質等を可視化して引き出す、また新たな業務遂行に必要な知識やスキル等を習得することで、結果として生産性の向上や組織の成長につなげることを目的としています。【HCM:Human Capital Management(人的資本管理)】

人的資本が注目される背景

2022年度の岸田首相の所信表明演説や政府方針等ありますが、人的資本や情報開示が今注目されている背景は主に以下の3つに集約されるのではないでしょうか。
①ESG投資の普及拡大と米国の開示義務化
ESG投資がグローバルで普及拡大していく中で、企業の人的資本を可視化することをステークホルダーから求められていることや、2020年8月に米国証券取引委員会による要求事項の中に人的資本の情報開示を義務付ける項目が新たに追加されたことで一気に情報開示が世界のトレンドになりました。
②少子高齢化社会における労働力不足
少子高齢化が進むなか、日本は超高齢化社会を迎え、社会構造のあり方に大きな影響を及ぼす「2025年問題」が喫緊の課題として危惧されています。2025年問題に関連する労働力不足や医療人材不足、事業継承の課題対策等を迫られている中で、その解決策の一つとして、企業が積極的に人材投資を行う人的資本経営を行うことで労働生産性を高め、企業価値の向上を図ることが求められています。
③D&I経営の推進と新たな価値創出の必要性
就業人口の減少や激化するグローバルな市場競争に対応していくためには、多種多様な人材を積極的に採用・教育・活用することで新たな価値創造につなげ、その取り組みを株主やステークホルダーに情報開示する必要性が求められています。

HRMとHCMの本質

HRMとHCMの言葉の定義や企業経営における目的・ゴールの違いは前述の通り、ご理解いただけたと思いますが、実際のところ、しっくりこない方も多いのではないでしょうか。

確かに人事領域では、前述のHRM(Human Resource Management)という言葉に代表されるように、これまでは人的「資源」管理という言葉がよく使われていました。
この人的資源という言葉には、従業員を消費すべき資源(リソース)、つまりコストとして捉える考え方が根底にありますが、そうだからと言って日本企業が人材にかける費用はなるべく抑えようという発想には必ずしもなってはいなかったのではないでしょうか。

事実これまでも日本企業の多くは、未経験の新卒者の一括採用や教育投資による戦力化に代表されるように、従業員へ教育・研修を実施し、スキルの開発や成長を促すことで、自社の企業価値向上に努めてきました。故に、この人的資源と人的資本の論点の本質は、言葉の定義の比較議論ではなく、企業の人材投資や生産性・企業価値向上の実態についての投資家やステークホルダーとのコミュニケーションの取り方に改善や工夫が必要だということではないでしょうか?

であるならば、全ての企業にとってこれまでの人材マネジメントの考え方や方法を全否定して、全く一から再構築するのが必ずしも正しい選択肢とは言えないと考えられます。むしろ、これまでの人材戦略の構築・人的資本への投資に関わる取り組みを投資家やステークホルダーに出来るところからわかりやすく整理し、定期的な開示と投資家等からのフィードバックを通じた人材戦略の磨き上げをしていく対話や、エンゲージメント向上が重要ではないでしょうか。

人的資本開示に向けて

ただし、自社の人的資本経営の取り組みと開示項目を整理するにあたり、「経産省 人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(人材版伊藤レポート2.0)」(図1参照)や内閣官房の人的資本可視化指針(図2参照)を参考に押さえておきたいポイントが幾つかあります。以下要点をまとめてみましたのでご参考にしてみてください。

 

図1

 

1.経産省 人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(人材版伊藤レポート2.0)」からの人材戦略の構築・人的資本への投資に関わる取り組みポイントの要点整理

①人的資本経営における人材戦略が経営戦略と連動しているか
②目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握で
きているか
③人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか
④目指すべきビジネスモデルや経営戦略の実現に向けて、多様な個人が活躍する人材ポートフォリオ計画の策定と運用の取り組みが着手されているか
➄個々人の多様性が、対話やイノベーション、事業のアウトプット・アウトカムにつながるような環境整備がなされているか
⑥目指すべき将来と現在との間のスキルギャップを埋めていくための施策(リスキル・学び直し)がなされているか
➆社員エンゲージメントを高めるための取り組みがなされているか
⑧時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取り組みがなされているか

2.開示項目についてのポイント
開示項目で重要なポイントは、法的に義務付けされているものと、原則的な方法のみが示され、数値基準を含む詳細な取扱い規定が設けられていないものが並存していることです。原則主義の下では、適切に把握された実態に沿って、原則的な方法を適用し、開示を行っていくことになります。(図2参照)

 

図2

 

図2からわかるように、金融庁からの有価証券報告書で義務付けられている項目に関するデータの開示規定はあるものの、その他の項目や指標/データに関しては、あくまでも任意に開示することになっています。

企業のビジネスモデルや競争優位の源泉が多様化するなかで、比較可能な情報のみで企業の経営戦略や人材戦略を表現することには限界があります。どのような項目/指標/データ等を開示すれば、市場から評価されるのか?フィギュアスケートの世界で規定演技と自由演技があるように、人的資本経営においても同様のことが言えるのではないでしょうか?むしろ任意開示の項目で自社の戦略や取り組みを説明する独自の開示項目・指標の存在こそが、自社の強みや競争優位性を示すことにつながるのではないでしょうか。

今後のビジネス環境において、人材マネジメントの重要性は増しています。企業は、変化する事業構造に対応し、人材育成・研修の重要性を理解し、戦略的な人材マネジメントを実践することが不可欠です。
弊社では法人向けグローバルリーダー育成研修サービスを提供しており、グローバルビジネスに必要なスキル・能力を可視化し、現状からゴールに至る最適なソリューションをお客様とともに作り上げております。

是非お気軽にお問い合わせください。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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