英語4技能ごとにCEFRレベルで評価できること
2022.03.22
皆さんの会社では、英語力について何か社内基準を設けていますか?
TOEIC®を基準として採用しているケースが多いのではないでしょうか。ただ、これからは
グローバル戦略を担う人材がもつべき語学力基準として、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages)を使うことをお勧めします。
CEFRを企業の英語力基準として使うことをお勧めする理由は次の3つがございます。
1.スキル基準としての国際通用性と汎用性
2.4技能ごとにCEFRレベルで評価できること
3.実践的な言語運用能力を重視していること
今回は2つ目の理由【4技能ごとにCEFRレベルで評価できること】について詳しく解説させていただきます。
※「1.スキル基準としての国際通用性と汎用性」についてはこちらをご覧ください!
4技能ごとにCEFRレベルで評価できること
TOEIC®LRは信頼性の高い優れたテストです。一方、リスニング・リーディングの能力だけを英語力基準にすることに疑問を感じている方も少なくないのではと思います。
CEFRでは、聞く(リスニング)・読む(リーディング)・話す(スピーキング。CEFRはさらに「発表」と「やりとり」に分類)・書く(ライティング)、4技能のそれぞれにレベルごとの「Can-Do(能力記述文:そのレベルで何ができるか)」を定めており、それができるかできないかで実力を評価することができます。
4技能別に分けられるので、社内の様々な英語業務のニーズに的確にこたえられるのがCEFRの良いところともいえます。
さらに、「話す力」については「発表」と「やりとり」の二つに分けて別にレベル設定をしています。プレゼンテーションやスピーチで聞き手に伝えるのと、打ち合わせや職場の日常的なコミュニケーションで段取りを進めるのは異なるスキルが必要なためです。
また「話す力」については、以下6つの項目からレベル別に分析ができます。
1.Range (表現の幅)
2.Accuracy (正確さ)
3.Fluency (流暢さ)
4.Interaction (やりとり)
5.Coherence (一貫性)
6.Phonology (音韻=言語の音声)
総合的な「話す力」は、これらに加えて、聞かれたことに対してきちんと的確に答えられているかというタスクアチーブメント(コミュニケーションの目的を達成しているか)という項目もあわせて評価されます。
「書く力」についても同様に、レベルごとの総合的なライティング力に加えて、
1.Range (表現の幅)
2.Coherence (一貫性)
3.Accuracy (正確さ)
4.Description (描写)
5.Argument (議論)
という5つの細目を示していますし、他の技能も同様に細分化して分析することができます。
このように4技能別にレベルが設定され、さらに各技能の分析項目が設定されているため、個々の弱点や強みを把握することができます。したがって、業務に必要な英語力を伸ばしたいときに、何をどう伸ばしたらよいかを的確に把握するために、CEFR準拠のテストを使うことができます。
変わりつつある英語業務をCEFRの技能別能力でチェック
さて、CEFRを活用いただければ、4技能のレベル把握を確認いただくことはイメージいただけたかと思います。
では、貴社内ではどのスキルを強化すべきでしょうか?
企業の中での英語を使う業務といってもその内容は様々です。
国内のグローバル統括部門や英語圏での海外駐在のように、4技能すべてで高いレベルを要求される部署もあるでしょうし、海外への販売拡大や国内のホスピタリティ系業務では顧客対応がスムーズにできるレベルの聞く力と話す力が求められます。
海外にシステム開発や運用メンテナンス機能がある会社では、エンジニア同士が英語でチャットやウェブ会議をやるでしょう。さらには、研究開発や国際法務など普段は文書の読み書きが多い反面、たまに対面で話すときに高いコミュニケーション能力がもとめられるケースもあります。
とくにコロナ以降、海外駐在や海外出張が減る反面、リモートのオンラインでコミュニケーションをする仕事の仕方が広まりました。そして、この傾向は今後も定着していくと思われます。
さらコロナ禍の今、以前のビジネス英語コミュニケーションとは異なるスキルも求められるようになっているのではないでしょうか。
例えば、ウェブ会議では対面時と比べて以下点に留意する必要があるでしょう。
・相手の状況を把握しにくいため、アイスブレークをうまく活用する
・伝えたい事ははっきりと文章を語尾まで言い切る
・ミーティングの目的に合わせて話の流れをコントロールする
・話の間の置き方や画面上の相手の表示などから状況判断する
・直接会ったことがない人とも信頼関係を築くためのコミュニケーションを増やす
・ファシリテーターをおく場合には、目的、進行、ルールを最初に明示する
・レコーディングする場合には事前合意を得る
これには聞く・話す・書く(チャット)・読む(画面の資料)、という活動をほぼ同時に行わねばなりません。話す力がより求められると同時に、チャットなどですぐに短い口語的な文章を書く「瞬書力」も益々重要になっています。
このように英語でウェブ会議をする業務には、より高いコミュニケーション能力が求められていることがわかります。
コロナを機に変わりつつある国際業務の在り方をふまえて、自社内の部門別の英語使用状況や、上司が部下に求める英語力、社員が感じる学習ニーズなどをアンケート調査で調べると、より変化に則した研修が組み立てられるでしょう。
その結果、仕事に直結したスキルを集中して習得できるようになりますし、社員の学習意欲も高まり結果として成果につながりやすくなるということが期待できます。社内で一斉に英語テストを実施する企業も多いと思いますが、そのときにタイミングを合わせて、社内英語アンケートを実施するのもひとつの方法です。
尚、当社では、企業がPROGOSテスト実施に合わせて、希望する企業には社内英語アンケートも実施し、CEFRレベルとアンケートの分析結果を人材育成に役立ててもらっています。
詳細はこちらよりお問い合わせください。
CEFRの活用で「聞く力」「読む力」と「話す力」のギャップから生まれるミスマッチを防止する
CEFRは「個人の英語力を4技能のレベルを横ぐしに比較する」というもう一つの使い方があります。
「聞く力」と「読む力」については多くの企業がTOEIC®LRを用いています。実施団体が出している換算表によると大体800点以上あればB2レベルということがわかります。
前回のコラムでご紹介した英語業務で責任ある仕事をするのに最低B2以上が必要ということも、感覚的にも合致すると思います。ただしこれは、聞く・読むことに関してのCEFRレベルであって、必ずしも話す、書くことについて同じレベルがあるという意味ではありません。
企業担当者から、「TOEIC®LRのスコアを英語力の基準として高いスコアの人を国際部門に配置したけれど現場で話せなかった」という声をよく聞きます。これは、現場で使うのとは違う技能をもとに判断をしたためで、当然起きうるミスマッチです。
「話す力」が必要な業務の英語力要件は、「話す力」という技能で評価し、判断する必要があります。
当社のビジネスパーソン約5000人を対象にした調査によると、聞く・読む力でB2の実力がある人で、話す力もB2を持っている人は10人に1人しかいませんでした。(以下図参照)
あとの9人は話す力はB1、A2でした。同じように、聞く・読む力でB1の実力がある人で、話す力もB1ある人は4人に1人しかいませんでした。
日本人の多くが読む、聞くという受け身の技能を中心に学習してきたため、4技能のバランスが悪く、話す、書くという発信力が不足しているということがわかります。
ビジネス現場ではリアルタイムのコミュニケーションが求められるので、「話す力」は重要であり、特にグローバル業務の世界の中では自分の意見をきちんと述べる発信力が重視されます。
一方で、日本人の「聞く力」「読む力」と「話す力」のギャップが大きいことはとても深刻で、頭では理解していてもミーティングで発言できない、電話での受け答えができない、自分の考えを述べられない等のことから、本来の実務能力より低くみられるなど業務を進める上でミスマッチが起きてしまうのです。
これからの海外事業をM&Aで拡大しようとする企業も多いと思いますが、買収先の企業の社員にコミュニケーションを通して言いたいことを伝える、人を動かすという力の不足は、日本企業のクロスボーダーM&Aがうまくいかない原因の一つともいわれています。
また聞く・読むテストの結果だけが英語力の基準となると、そのテスト対策として、学習も聞く・読む中心になり、技能の偏りがさらに増幅していきます。4技能のうち、まずは聞く・読むから学習しているうちに、どうしても発信力の学習がおざなりになります。
CEFRは4技能を同一のレベルで比較することができるので、こうした4技能間のでこぼこが一目瞭然にわかり、仕事に必要なスキル習得への近道が見えてくるのです。また4技能共通で誰が聞いてもぱっとわかる基準になるのがCEFRです。
今回は、企業がCEFRを英語力基準にいれるべき3つのポイントのうち、2番目の「4技能ごとにCEFRレベルで評価できること」をテーマにしました。ポストコロナで変化した英語業務に沿って、研修設計のために実施する英語アンケートを実施するメリット、4技能レベルを比較したデータから見えてくる技能の偏りとその弊害について解説してきました。
次回は、CEFRを企業の英語力基準として使うことをお勧めする3つ目の理由:「実践的な言語運用能力を重視していること」を詳しく見ていきます。
ここでご紹介をしたギャップを見ると、力をいれて学習すべきはスピーキング力であることがわかります。自社の社員の英語力について同様の比較データを作成したい方はぜひお問い合わせください。
【出典】
投野由紀夫 (著, 編集), 根岸雅史 (著, 編集)「教材・テスト作成のための CEFR-J リソースブック」 大修館書店 2020
http://www.cefr-j.org/
https://rm.coe.int/cefr-companion-volume-with-new-descriptors-2018/1680787989
https://www.iibc-global.org/toeic/official_data/toeic_cefr.html
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kaigaima/image/20190409003-2.pdf