成果につながる実践的な言語運用能力 – CEFRを英語力基準に

2022.04.06

 

これまで2回にわたって企業がCEFR(Common European Framework of Reference for Language:ヨーロッパ言語共通参照枠)を英語力基準として使うべき理由を説明してきました。

1. スキル基準としての国際通用性と汎用性

2. 4技能ごとにCEFRレベルで評価できること

 

今回は3つ目の理由:CEFRが【実践的な言語運用能力を重視していること】について詳しく解説させていただきます。
実はこれが、成果を求めるビジネスにふさわしい語学観であり、ビジネスコミュニケーションでCEFRを活用する真骨頂なのです。

ビジネスにおいて結果を出すコミュニケーション能力とは?

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変わりつつある英語業務をCEFRの技能別能力でチェック

ブリティッシュカウンシルは、使えるレベルで英語を話せる人が2013年には世界で17.5億人いて、2020年にはこれに使えることをめざす学習者も含めると、20億人、実に世界の人口の1/4が英語を話すと予想しました。

英語は世界でもっとも話者が多い言語です。しかしそのなかで、英語のネイティブスピーカー人口は、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの人でその人口を足しても4億人程度です。つまり、英語は英語圏の国の母語という枠を超え、圧倒的多数の英語話者が第二外国語として英語を使っている人たちである、ということを示しています。

第二外国語としての英語話者は、インド、フィリピンなどのアジア、ナイジェリアなどのアフリカの国、ドイツ、フランス、イタリアなどの欧州諸国に広がっています。
このことを English as a lingua franca (世界共通語としての英語)とも言います。英語は世界の言語コミュニケーションのOSとも言うべき影響力のある言語となっているのです。

この状況は「英語ができる」ことの定義にも大きく影響を与えました。英語の習得においては、いかにネイティブのようにきれいな発音で流暢に話すかということより、いかにコミュニケーションの目的を果たすかのほうが、重視されるようになりました。英語に多少訛りや間違いがあったとしても、わかりやすく、効果的にコミュニケーションがとれれば良しとするのです。

これは、ビジネスで丁々発止の英語の交渉をしたことがある人ならピンとくるかもしれません。そうでなくても、最近ニュースでよく見る、グテーレス国連事務総長やテドロスWHO事務局長など国際機関のリーダー層の英語を思い浮かべてみるとわかると思います。

ちなみに2018年に発表されたCEFRの資料では、ネイティブという言葉が使用されなくなりました。またCEFRが定義する「実践的な言語運用能力」によれば、ネイティブよりも言語運用能力が高いと評価される非ネイティブもいて当然ということになります。「コミュニケーションの目的を達成する言語能力というのは、母語かどうかではなく、スキルとして高めることができる」という考え方です。これは外国語学習者にとっても励みになることでしょう。

 

行動指向アプローチ

すこし堅い表現ですが、CEFRの原文訳をご紹介します。CEFRでは言語使用者を「ある特定な状況において行動する社会的な存在である」と定義しています。そして、言語コミュニケーションを行うということは「言語使用者が自分のもつ言語能力ならびに言語能力以外の知識・能力を用いて目的を達成する行為である」としています。これをCEFRの行動指向アプローチ(AoA:
Action-oriented Approach)
と呼んでいます。

そして目的を達成する行為がタスクです。
タスク(Task)というと普通は課された業務という意味ですが、CEFRでは言語活動において問題を解決するうえで必要だと思われる行動や、目標を達成するためにやらなければいけないことをタスクと呼んでいます。
CEFR準拠のテストでは、実践的運用能力としてのタスク遂行能力があるかどうかを重要視しています。ちなみにCEFR準拠のテストが測るレベルが、準拠でないテストのCEFR換算レベルと決定的に違う点は、前者が行動指向アプローチをとっていることです。
またCEFRに基づく実践的な英語スキルを習得するための研修は、知識や定型表現を覚えこむのが目的ではなく、特定のテーマに関するタスクを用いた問題解決型、課題解決型のカリキュラムでなければなりません。

できること ー Can Do Descriptors ー

CEFRの行動指向アプローチを端的に示すものが、Can Do Descriptors(能力記述文:そのレベルで何ができるか)です。CEFRは4技能のそれぞれにレベルごとのCan Do Descriptorsを定めています。
4技能とは、聞く(リスニング)、読む(リーディング)、話す(スピーキング。CEFRはさらに「発表」と「やりとり」に分類)、書く(ライティング)ですが、2020年のCEFR Can Do Descriptorsにはinteraction, Mediationという新しい分類も加わりました。
現在、英語だけでも計2,000近くCan Do Descriptorsがあり、テストや学習や指導に使われています。CEFR以外でも研究機関等がCEFRレベルによるCan Do Descriptorsを作成しています。ここではCEFRのCan Do Descriptorsからビジネスに関連がありそうな例をご紹介します。

 

Can Do Descriptors事例 ~B1レベルとB2レベルの違い~

話す力でB1がある方は、口から単語がすらすらと出てきて、英語がペラペラだねと言われることがあります。しかし企業の英語使用部署で責任ある仕事を任せるにはB2以上の話す力が必要です。なぜでしょうか?

 

以下、ミーティングに関連する Can Do Descriptorsの抜粋を見てみましょう。かなり具体的なビジネスミーティングのシーンを思い浮かべることができると思います。

 

■B1 話すこと

・定型表現を使って未来の計画や意図を説明することができる

・簡単なビジネスのやりとりのなかで、申し出を受諾する簡単な定型表現を使うことができる

・自分なりの言葉や順番を用いて短い英文を要約することができる

・よく知っているトピックであれば、ビジュアルを用いながら短く語ることができる

・信条や意見、賛成反対を礼儀正しく表現することができる

・短い言い訳や理由をつけて謝ることができる

・簡単な言葉を用いて、短く理由を述べたり、説明することができる

・最重要な点を強調しながら簡単な関連情報を伝えることができる

 

■B2 話すこと

・テレカンファレンスで自分の理解が正しいかを聞き返して確認することができる

・業務に関する計画・アクション・締め切り・仕上がり状況・懸念事項の詳細を話し合うことができる

・ミーティングで定型表現を用いて合意形成を促すことができる

・テレカンファレンス中に参加者に問いかけをして議論に参加するよう促すことができる

・合意が得られないことについて、その大まかな理由を尋ねることができる

・他の人が言ったことを要約して言いかえることができる

・誤解を招いてしまったことについて、間違いを修正できる

・議論や説明を通して明確に自分の意見を正当化できる

・様々な選択肢の賛成判定について話し合うことでトピックに対する観点を、説得力を持って説明できる

・実現可能性も含め将来の計画を詳細に説明することができる

 

B1とB2の違いにお気づきになりましたか?

まず、B1では「定型表現」「よく知っている」「簡単な」という言葉がよく使われているのがお分かりかと思います。これは、かなり限定的な状況でしか話せないことを意味します。その場の状況変化や話の流れに沿って柔軟に対応して話すことはできず、予想外のことや少し込み入った話になるとついてこられません。周囲がこの人に合わせて、ゆっくりかみ砕いて説明するなどすれば何とかなるでしょうが、ビジネスの場では普通そのようなことは期待できず、生産性も下がります。会議のなかで果たせる役割としたら、簡単な資料の説明でしょう。

 

それに対してB2Can Do Descriptorsの内容からは、議論したり、方向修正したり、確認したり、まとめたりと、臨機応変にミーティングを進めて会議の目的を達成するコミュニケーションが何とかできることがわかります。グローバルビジネスのミーティングは、その場で意見を率直に出し合い、議論し、その場で決めていきます。ですから、最低限このレベルの話す力がないと太刀打ちできません。この違いが「責任ある仕事ならB2以上が必要」とする理由です。

 

CEFRの実践的な言語運用能力を紐解いていくと、Can Do=仕事に直結することがよくわかると思います。Can Do Descriptorsで示されたことができるかをテストで測定したり、学習の目標にしたり、研修のアクティビティに反映させていくことで、「目的を達成するための英語コミュニケーション能力」を高めていくことができます。仕事で「これができるようになる」という具体性は、社会人が英語を学ぶモチベーションのアップにもつながります。

 

Can Do Descriptorsはいくつかの研究機関が作成していることを述べましたが、CEFRをさらに細分化したCEFR-Jのものもあります。さらに特殊な業務の場合には、企業がその業務にそってカスタマイズして作成することも可能です。ただ殆どの場合、英語によるミーティング、ディスカッション、交渉、プレゼンテーションなどにつながるCan Do Descriptorsは既存のものでカバーすることができます。

 

英語を使う環境で、英語以外のビジネススキルを発揮するためには、このCEFRの行動指向アプローチが鍵となると思います。単に言語的要素のみではなく、運用場面をふまえたスキル、簡単に言うと、「わかる」でなく「できる」という行動面を見ること。これが企業が英語力基準としてCEFRを使うべき、決定的な理由です。

 

Can Do Descriptorsは英語でかかれているものがほとんどですが、企業の人事研修担当の方がレベルを判断しやすいように、今後日本語の情報集として整えていく予定です。これをうまく企業内の英語力基準の設定や、部署やジョブごとに求められるCEFRレベルに活用すれば、企業におけるCEFR活用はぐっと進展すると思います。
ご興味がある方は、お問い合わせください。

 

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以上3回にわたり、企業がCEFRを英語力基準にいれるべきポイントについて解説いたしました。

最後までお読みいただきありがとうございました。


出典】
https://www.britishcouncil.org/sites/default/files/english-effect-report-v2.pdf
投野由紀夫 (編)「英語到達度指標CEFR-J ガイドブック」 大修館書店 2013
http://www.cefr-j.org/
https://rm.coe.int/cefr-companion-volume-with-new-descriptors-2018/1680787989
https://www.coe.int/en/web/common-european-framework-reference-languages/the-cefr-descriptors

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